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ダンス・ダンス・ダンス/村上春樹その後6

2010/12/14 本

ダンス・ダンス・ダンス (講談社文庫)

ダンス・ダンス・ダンス (講談社文庫)

  • 作者:村上春樹
  • 発売日: 2018/08/03
  • メディア: Kindle版
 

 
これまで読んだ5作品のどれよりも(物語)小説としての完成度は高い。過去記事を読んで頂かないと意味が分からないとは思うが、「先細り感」「投げ出し感」も全く感じない。長編としてのバランスもいい。

発表年が1988年。ウィキペディアによると、1985年「世界の終りと〜」を書き終わったあたりから、ヨーロッパで生活するようになったらしく、そういった環境の変化も影響しているのかも知れない。あるいは、ただ単に、いわゆる長編を書くコツを得たのかも知れない。

  • 芥川賞はなぜ村上春樹に与えられなかったか – 沈黙する言葉(旧)
  • 風の歌を聴け/村上春樹その後1 – 沈黙する言葉(旧)
  • 1973年のピンボール/村上春樹その後2 – 沈黙する言葉(旧)
  • ノルウェイの森/村上春樹その後3 – 沈黙する言葉(旧)
  • 羊をめぐる冒険/村上春樹その後4 – 沈黙する言葉(旧)
  • 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド/村上春樹その後5 – 沈黙する言葉(旧)

とは言っても、内容的に何か新鮮なものがあるということではなく、長編の構成力という意味において、この「ダンス・ダンス・ダンス」は、以降の作品をまだ読んでいないので適当な話だが、村上作品の区切りに位置づけられるのではないかということである。それほどにまとまっているし、とても読みやすい。

内容や登場人物は相変わらずで、主人公の「僕」は、自分はつまらぬ、何もない、誰にも必要とされていない人間だと悟り口調で語る、孤独(を装う?)な男だが、なぜか、皆(他の登場人物たち)が、その魅力にやられ、寄ってくる。

極めて特殊な超有名人の両親の間に生まれた13歳の霊感少女は、学校などにはなじめず、全てに突っ張って生きている人物だが、彼だけにはなついて(と表現されている)くる。今や超有名な俳優になっている同級生の五反田くんは、実は君(「僕」)がうらやましかったんだと、全てを打ち明ける友人になる。ホテルに勤めるユミヨシさんは、実はこの作品は恋愛小説だと思うのだが、その相手の女性であるユミヨシさんは、普通に考えれば(普通に考えたら小説にならない?)あり得ない、得体の知れない宿泊客である「僕」と飲みに行き、秘密を語り、そして「僕」の部屋に自らそっと入ってくるような行動をとる。

とにかく、彼彼女たちは、何かしら問題を抱え、社会からはみ出してはいるが、とてもいい人たちばかりだ。そして、皆、「僕」を好きになる。このパターンは、私の読んだ村上作品に一貫している。

物語という点においても、こだわりが強いのか、飛躍した発想が出来ないのか(怒られそう)、「ノルウェイの森」をのぞいて、これまでの長編5作が全て連続した作品になっている。もちろん、当初からその計画で書き進めたわけではないだろうから、書いたものに対する「引きずり」とか「後悔」とか、そういったものが強いのかも知れない。書き残した感じがするのだろうか?

この「ダンス〜」は、鼠三部作(といわれる)の三作目「羊をめぐる冒険」の続編となっているが、ただ、本筋がつながっているわけではなく、「羊をめぐる冒険/村上春樹その後4」の真ん中あたりに書いた「何かしら霊感を持つ素敵な耳を持つガールフレンド=キキ」を話の中心においているだけで、「投げだし」た、たとえばなぜ彼女は鼠の別荘でわけもなく消えてしまったのかなど、いろいろなものを解決してくれるわけではない。とはいえ、さすがに、彼女を都合よく消してしまったことが気になったか…?

時はバブル真っ只中、海外にいたらしい村上春樹が、バブルをどの程度肌で感じていたかは分からないが、それらしき雰囲気は作品の中に随分感じられる。少女の両親や五反田くんの存在、ユミヨシさんが勤めるホテル、そして全体の雰囲気が、とにかくふわふわしている。語るほど、その誰からも生きることの切迫感が感じられない。「僕」は俗物になることを拒否しつつ、結局、やっていることは俗物そのものだし、その時代、こういう人間を「スノッブ」と、やや逆説的に呼んだような…。

ダンス・ダンス・ダンス(上) (講談社文庫)

ダンス・ダンス・ダンス(上) (講談社文庫)

  • 作者:村上 春樹
  • 発売日: 2004/10/15
  • メディア: 文庫
 
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