金原ひとみ著『アタラクシア』

アタラクシア|金原ひとみ|集英社 WEB文芸 RENZABURO レンザブロー

金原ひとみさん、10年ぶりに読みました。前回読んだのはいつだったかとサイト内を検索しましたら『TRIP TRAP/トリップ・トラップ』でした。その時も久しぶりに読んだと書いています。

この作家の魅力はほとばしる情がそのまま言葉になって出てくるその勢いある文章です。

デビューから15年、まったくその熱さには衰えがありませんし、15年の経験がその熱さの幅を広げた感じがします。

7年くらいフランスに移住していたようです。それがかなり影響しているようです。自分の知らないことを吸収しそのことを隠さないことに抵抗のない人のようで、フランス社会の価値観(知らないけど想像で)をかなり吸収しているのではないかと感じます。

数人の人物のモノローグで構成された小説です。それぞれがちょっとずつ関連しており、最後はそれらがひとつにまとまるのかなと思って読み進みましたが、最後まで個々のモノローグのまま終わっています。

そのひとつひとつが作家自身の体験ではないかと思わせるのはいつものことで、それが文章の熱さに繋がっているということでもあります。

あえて言えば、20歳くらいで単身モデルを目指してフランスに渡り、挫折(というのは正しくない)して日本に戻った「由依」が軸にはなっています。この由依、よく言えば自由人、悪く言えば身勝手な人物で、結婚はしていますが、フランスで知り合ったフレンチのオーナーシェフ「瑛人」といわゆる不倫関係にあります。 

今あらためて人物を数えてみましたら、「由依」と「瑛人」、瑛人のレストランでパティシエとして働く「英美」、由依の夫となる作家の「桂」、今はファッション雑誌のライターの仕事をしている由依が出入りしている出版社に勤める「真奈美」、由依の妹でパパ活(あえて使えば)をしている「枝里」の6人でした。

とにかく皆、自分が満たされていない、誰も自分をわかってくれない、愛する相手がいてもその相手が自分を理解している確信が持てない、そんな気持ちを吐露しまくります。そういう小説です。

おそらく耐えられない人もいるでしょう(笑)。でも、文章が読ませるんです。読んでいくとすーと引き込まれるリズムを持っているんです。

さすが、これら登場人物、それはおそらく作家自身のものでしょうが、そうした熱さを、今は持ちえませんが、それでもなぜかこの作家は人を惹きつけるものを持っています。

おそらく、この作家の持つ身勝手さも、それなのに他者を求め続ける、そのまた身勝手さも、きっと誰もが持っているものだからでしょう。

アタラクシア

アタラクシア

 
蛇にピアス

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