彩瀬まる著『やがて海へと届く』感想・レビュー・書評・ネタバレ

2022.05.19

中川龍太郎監督に注目しているということもあり、「やがて海へと届く」を見て原作を読んでみました。どことなく感じていたしっくりこないいくつかのわけがわかりました。やがて海へと届く (講談社文庫)作者:彩瀬まる講談社Amazon小説でもすみれの存在感はうすい湖谷真奈の恋の物語フカク、フカク私たちは世界の片側しか見ていない小説でもすみれの存在感はうすい原作でもすみれの...

吉田修一著『ミス・サンシャイン』感想・レビュー・書評・ネタバレ

2022.03.10

吉田修一さんの本は久しぶりだなあと思って読んだのですが、なんと一年前に『湖の女たち』を読んでいました。記憶に残るものが少なくなってきているんでしょうか、怖いですね(笑)。ミス・サンシャイン (文春e-book)作者:吉田 修一文藝春秋Amazon優しい登場人物たち映画愛恋心と愛長崎原爆優しい登場人物たち吉田修一さんの小説に出てくる人物は皆優しいです。この『ミス...

ウスビ・サコ著『サコ学長、日本を語る』感想・レビュー・書評・ネタバレ

2022.02.08

ウスビ・サコさんの名前を何で知ったのかははっきりとは記憶していませんが、多分大学の学長になられたことをネットで見たんだと思います。2018年の4月から京都精華大学の学長を務めてみえます。そのサコさんが日本での生活や日本の価値観に感じることを書いています。かなり厳しい指摘が多いのですが「なんでやねん」などと関西弁が多用されていますのでイヤミはありません。バンバラ語、英語、フランス語、中国語、そして...

柴崎友香著『きょうのできごと』感想・レビュー・書評・ネタバレ

2022.02.05

『きょうのできごと、十年後』を読み、面白かったのでデビュー作『きょうのできごと』も読んでみました。デビュー作とは思えないほど軽やかで余裕があります。余裕ってのも変ですね、気負いがないという方があたっているかもしれません。きょうのできごと: 増補新版 (河出文庫)作者:柴崎友香河出書房新社Amazon過ぎ去りし青春1、レッド、イエロー、オレンジ、ブルー2、ハニー・フラ...

青木理著『破壊者たちへ』感想・レビュー・書評・ネタバレ

2022.01.17

日々閑々,

青木理さんの著書は『日本会議の正体』『安倍三代』、そして『時代の抵抗者たち』と読んできています。批判することや異議を唱えることが嫌われるこの時代にあって、テレビのコメンテーターとしても常に権力を監視することこそがジャーナリストの役目であるとのスタンスを守り続ける数少ない人物です。破壊者たちへ作者:青木 理毎日新聞出版Amazon誰がこの国を壊したのか?われわれは日本の現...

柴崎友香著『きょうのできごと、十年後』感想・レビュー・書評・ネタバレ

2022.01.04

昨年末、一日中ただ本を読むくらいしかやることがない(できない)一日を過ごさざるを得なくなり、図書館で2冊借りてその日のうちに読んだものの1冊です。日常の会話文が多い小説ですのであっという間に読めてしまいます。きょうのできごと、十年後 (河出文庫)作者:柴崎友香河出書房新社Amazon過ぎ去りしものは戻らないが…5、真夜中の散歩 誰かのきょうのできごと1、空の青、川の青...

パトリック・ネス著『混沌の叫び/心のナイフ』感想・レビュー・書評・ネタバレ

2021.12.22

ダグ・リーマン監督の「カオス・ウォーキング」をみて結構面白かったので原作を読んでみました。ただ、原作はこの『心のナイフ』から『問う者、答える者』『人という怪物』と続く三部作とのことですので、読んだといっても第一部だけです。心のナイフ上 混沌の叫び作者:パトリック・ネス東京創元社Amazon心のナイフ下 混沌の叫び作者:パトリック・ネス東京創元社Amazon...

笛美著『ぜんぶ運命だったんかい』感想・レビュー・書評・ネタバレ

2021.11.29

「#検察庁法改正に抗議します」のハッシュタグを最初に発信した「笛美」さんの…と書いてキーボードを打つ指が止まってしまいました。この本は、なんて表現すればいいんでしょう? もちろん小説ではありませんし、んー、著作ですかね。と、出版元の「亜紀書房」を見てみましたら「エッセイ」となっていました。ぜんぶ運命だったんかい――おじさん社会と女子の一生作者:笛美亜紀書房Amazon2...

千葉雅也著『オーバーヒート』感想・レビュー・書評・ネタバレ

2021.10.20

千葉雅也さん、この『オーバーヒート』も前作の『デッドライン』に引き続いての芥川賞候補です。残念ながら受賞は逃しています。オーバーヒート作者:千葉雅也新潮社Amazon『デッドライン』の続編…「言語は存在のクソだ!」やはり私小説若さへの決別芥川賞選者の選評がおもしろい『デッドライン』の続編…と言ってもいいほど、人物的にはつながっています。『デッドライン』の主...

ケン・リュウ著『円弧 アーク』感想・レビュー・書評・ネタバレ

2021.09.10

映画「Arc アーク」を見て、こんな陳腐な(ペコリ)映画になってしまう SFの原作とは一体どういう作品なんだろうと図書館に予約しておいたものがやっと順番が回ってきました。ケン・リュウさんという作家を知りませんでしたのでその興味もあります。あらためて映画を見たのはいつだったんだろうとレビューの日付を見てみましたら、なんと今年の6月25日です。1年くらい前の感覚なのに、まだふた月半です。もの...

村上春樹著『ドライブ・マイ・カー』感想・レビュー・書評・ネタバレ

2021.07.15

映画,

村上春樹さんの短編小説『ドライブ・マイ・カー』が濱口竜介監督によって映画化され、現在カンヌ映画祭のコペンティションに出品されています。その小説は『女のいない男たち』という短編集に収録されており、映画を見る前に読んでみました。女のいない男たち (文春文庫)作者:村上春樹文藝春秋Amazon映画は8月20日公開小説「ドライブ・マイ・カー」ネタバレあらすじ チェーホフ「ワ...

木俣正剛著『文春の流儀』感想・レビュー・書評・ネタバレ

2021.06.27

著者の木俣正剛さんは文藝春秋社に40年間勤められ、その間に『文藝春秋』や『週刊文春』の編集長を担当され、2018年の退社後は岐阜女子大学文化創造学部の教授として教鞭をとられ、現在は同大学の副学長の職にある方です。その木俣さんの文春時代の回想録です。 文春の流儀 (単行本)作者:木俣 正剛中央公論新社Amazon文春砲の内幕本じゃないよ週刊文春はもちろんのこと、文藝春秋で...

木崎みつ子著『コンジュジ』感想・レビュー・書評・ネタバレ

2021.06.17

昨年2020年の「すばる文学賞」受賞作であり、2020年下半期の「芥川賞」候補作です。その「芥川賞」の受賞作は、宇佐美りんさんの『推し、燃ゆ』でした。コンジュジ (集英社文芸単行本)作者:木崎みつ子集英社Amazon川上未映子さん超絶賛 客観的に語られるイマジナリーフレンド人物に実在感がないリアンとの出会いこの小説がリアンの伝記本のようベラさんのことも知りたい...

柚月裕子著『孤狼の血』(ネタバレ)アウトロー刑事対暴力団&警察組織の任侠小説

2021.05.27

別ブログで映画のレビューを書いていますが、「娼年」あたりから松坂桃李さんへの注目度が上がっており、「孤狼の血 LEVEL2」公開前に予習をしておこうと「孤狼の血」をDVDで見たところ、何だ、この下品な話(映画)は?! と驚いたものですから原作を読んでみました。原作はいたってまともなエンターテインメント小説でした。孤狼の血 「孤狼の血」シリーズ (角川文庫)作者:柚月裕子発売日: 2...

吉川惣司 矢島道子著『メアリー・アニングの冒険』

2021.05.16

映画,

映画「アンモナイトの目覚め」を見て知ったメアリー・アニングさん、映画でも一応化石収集家として描かれてはいますが、テーマは一貫してレズビアンというセクシュアリティを追った映画になっていました。実在した人物なのにこんな一面的な描き方でいいのかなあと疑問が生まれ、いろいろググっていましたら「メアリー・アニングの冒険」という伝記本があり、なんと! それも翻訳ではなく日本で出版されているものでした。...

村田沙耶香著『コンビニ人間』この小説に批判性はあるのだろうか…

2021.04.20

5年前の芥川賞受賞作をなぜ今頃ということなんですが、受賞時、それ以前に「タダイマトビラ」という作品を読んおり、その書き出しには惹きつけるものがありながら、結局、観念世界から一歩も出ることなく、率直なところかなり幼い印象で終わってしまったことからスルーしてしまったということです。で、今回手に取ったのは、ネット記事か何かで村田沙耶香さんが海外でも注目されているという記事を読んだ記憶があり、え?なぜだ...

宇佐見りん著『推し、燃ゆ』感想・レビュー・書評・ネタバレ

2021.04.08

言わずと知れた2020年下半期の芥川賞受賞作です。初回、文藝春秋で読み始めるも挫折、たまたま図書館に予約してあった『かか』を無理かなと思いつつも読み始めたところその才能にびっくり! 再度この『推し、燃ゆ」に挑戦したところ、読み進んでみれば、20年ほど前の同じく芥川賞受賞作『蛇にピアス』金原ひとみさん以来のインパクトでした。推し、燃ゆ作者:宇佐見りん発売日: 2020/09/10メ...

チョ・ナムジュ著『82年生まれ、キム・ジヨン』感想・レビュー・書評

2021.03.10

映画より小説を読むべき最後の「2016年」の章がこの小説の肝キム・ジヨンの33年間女性が働きやすい国ランキング映画より小説を読むべき半年くらい前に見た映画「82年生まれ、キム・ジヨン」の原作を読みました。リンク先のレビューに書いたことは間違っていなかったです。そのレビューに書いていることは、キム・ジヨンが憑依状態になるまでの過去がエピソードとしてしか描かれておらず、キム・ジヨンの追...

深沢潮著『海を抱いて月に眠る』在日二世が亡き父の手記から自らのルーツを再認識する

2021.02.16

在日二世の主人公が父親の遺品である手記を読み、それまで知らなかった父の過去を知ることで自身のルーツを再認識するという物語です。その手記には戦後日本にわたってきた父親が祖国に戻ることを胸に歩んできた30年の歴史が刻まれています。それはつまり、朝鮮戦争、南北分断、軍事政権時代、そして民主化という朝鮮半島(韓国)の戦後の歴史(のさわり)を知ることでもあります。深沢潮著『海を抱いて月に眠る』主...

吉田修一著『湖の女たち』(ネタバレ)731部隊、やまゆり園、湖東記念病院

2021.01.11

このところの吉田修一さんは連載ものの単行本化が多いように感じます。これも週刊新潮に2018年8月から1年くらいにわたって連載されていたとのことです。それにしても連載ものって、書く人も読む人もよく集中力が持続するものだと感心します。吉田修一著『湖の女たち』読む人はともかく、この小説では書く人、吉田修一さんは集中していないでしょう(笑)。むちゃくちゃ散漫な小説です。一体この物語はどこへ向か...