磯崎憲一郎著『日本蒙昧前史』感想・レビュー・書評

2020.11.17

『日本蒙昧前史』学術書のようなタイトルの小説です。それに「蒙昧」という言葉自体も無知蒙昧などと人格否定にも使われそうな言葉ですので、あまり日常的に目にしたり耳にしたりする言葉ではありません。さらに「前史」として描かれる時代が1970年くらいから1985年あたりまでの昭和末期ということになれば、その後やってくる平成時代、そして今現在が「蒙昧」の時代ということになるのでしょうか。日本蒙昧前史...

藤野可織著『ピエタとトランジ<完全版>』80歳の女子高生が「死ねよ」「お前が死ねよ」と…

2020.09.20

読み始めてしばらくは、何だ、これ、ラノベか?! などと思いましたが、読み終わってみれば素敵な小説でした。人類の滅亡を女性二人の一生で描く近未来小説であり、荒野にただひとり取り残されたようなアポカリプス感漂う物語です。ピエタとトランジ<完全版>作者:藤野可織ピエタとトランジピエタとトランジ発売日: 2020/03/11メディア: Kindle版 <完全版>とあるのは、...

千葉雅也著『デッドライン』性の境界線を思索する

2020.09.02

章番号のないプロローグのような導入は男と男の性愛の場、映画では同性の恋愛ものも結構見ますが、ここでの描写は恋愛感情を抜きにしたいわゆる(有料)ハッテンバと言われる場所です。そこでの主人公の〇〇の行動を追う描写から始まります。デッドライン作者:千葉雅也発売日: 2019/11/29メディア: Kindle版 千葉雅也著『デッドライン』〇〇としたのは、実際にこの小説...

金城一紀著『GO』やっぱり映画より原作のほうが面白い

2020.07.22

なぜか20年前の直木賞受賞作を読むことになりました。面白かったです。GO (角川文庫)作者:金城 一紀発売日: 2012/10/01メディア: Kindle版 他の本も読んでみようかと著作リストを見てもあまり小説は書いていないんですね。テレビドラマの脚本の方へ進んだということでしょうか。この『GO』、今さら私が言うまでもなく窪塚洋介さんと柴咲コウさんの主演で直木賞受...

小泉今日子著『黄色いマンション 黒い猫』

2020.06.25

日々閑々,

黄色いマンション 黒い猫 (Switch library)作者:小泉今日子発売日: 2016/04/15メディア: 単行本 小泉今日子さん。あらためて考えてみれば、「トウキョウソナタ」や「ふきげんな過去」も見ているわけですから、もうとっくに「キョンキョン」や「なんてったってアイドル」のイメージは消えていいはずですが、不思議なものでインプットされた初期イメージを書き換える...

井上荒野著『あちらにいる鬼』父親讃歌、あるいは男をめぐる女の悲劇

2020.04.21

面白かったんですが、そんなに井上光晴さんってのは魅力的な人だったの? って聞きたくなるような小説です(笑)。あちらにいる鬼作者:井上 荒野発売日: 2019/02/07メディア: 単行本 井上光晴さんと瀬戸内寂聴さんが不倫関係になる1966年あたりから、その関係を精算するために寂聴さんが出家する1973年を経て、1992年に光晴氏が癌で亡くなり、そして2014年に母親が...

沼田真佑著『影裏』画鋲で留められた電光影裏斬春風の模造紙

2020.03.02

沼田真佑著『影裏』映画の印象があまり良くなく、原作はどんなものかと読みました。2017年上半期の芥川賞を受賞しています。影裏 (文春文庫)作者:真佑, 沼田発売日: 2019/09/03メディア: 文庫 映画との関連で言えば、この小説を、書かれていることそのままに映像化しても何も生まれないだろうと思います。あえて重要なことを書かないことで成立している小説です。...

宮下奈都著『静かな雨』映画とはまた違った小説の世界

2020.02.22

宮下奈都著『静かな雨』映画を見て興味を持ち読んだんですが、 随分違いますね。映画の感想はこちら。随分違うというよりもまったく異なった作品になっていると言ってもいいくらいです。まず人物像が全然違います。映画の行助はかなり寡黙な人物ですが、小説ではよく喋りますし朗らかです。もちろん小説は行助の一人称で語られますので心の声も活字になるということもありますが、それにしても映画の行助(仲野太...

湊かなえ著『落日』頭の中で考えた物語は人間を描けない

2020.01.05

湊かなえ著『落日』新聞の書評で興味を持ち読んだ本です。その書評がネットにありました。東京新聞:落日 湊(みなと)かなえ著:Chunichi/Tokyo Bookweb(TOKYO Web)湊かなえの新たなる代表作、今年最高の衝撃&感動作。重い十字架を背負って生きる人々の心の叫びと希望の灯。“落日”の向こうに見える未来とは!?入魂の書き下ろしミステリー長篇。新人脚本家の甲斐千尋は、新進...

金原ひとみ著『アタラクシア』

2019.11.09

アタラクシア|金原ひとみ|集英社 WEB文芸 RENZABURO レンザブロー金原ひとみさん、10年ぶりに読みました。前回読んだのはいつだったかとサイト内を検索しましたら『TRIP TRAP/トリップ・トラップ』でした。その時も久しぶりに読んだと書いています。この作家の魅力はほとばしる情がそのまま言葉になって出てくるその勢いある文章です。デビューから15年、まったくその熱さには衰えがありま...

白石一文著『火口のふたり』映画の原作本

2019.09.26

映画,

映画「火口のふたり」の原作本です。映画のレビューはこちらです。 この映画を見るまで白石一文さんを知らなかったのですが直木賞作家なんですね。物語としては、映画はほぼ原作通りに進んでいます。ただ、映画では言葉だけの賢治の背景にかなり嘘っぽさを感じていたんですが、さすがに小説ともなりますとその記述も多く、少しは賢治の思いも伝わってくるようにはなっています。火口のふたり (河出文庫)作...

吉田修一著『犯罪小説集』10月18日公開予定の映画「楽園」の原作

2019.09.17

吉田修一さんの『犯罪小説集』という小説が「楽園」というタイトルで映画化されると知り、読んでみました。映画は見ていませんが、以下、小説からの想像でネタバレ的な内容がありますのでご注意ください。吉田修一著『犯罪小説集」それぞれ犯罪絡みの5つの短編で構成されています。5つに関連があるわけではなく、すべて単独の物語です。「青田Y字路」「曼珠姫午睡」「百家楽餓鬼」「万屋善次郎」「白球白蛇伝」とか...

今村夏子著『むらさきのスカートの女』

2019.08.28

今年2019年上半期の芥川賞受賞作です。【第161回 芥川賞受賞作】むらさきのスカートの女作者: 今村夏子出版社/メーカー: 朝日新聞出版発売日: 2019/06/07メディア: 単行本この商品を含むブログを見る 津村記久子さんの『ポトスライムの舟』を読んだ際に、「芥川賞のすべて・のようなもの」というサイトを知りましたので、この『むらさきのスカートの女』でも見てみま...

津村記久子著『ポトスライムの舟』『十二月の窓辺』

2019.08.21

2008年下半期の芥川賞受賞作です。処女作の『君は永遠にそいつらより若い』 に続いて読みました。2008年下半期の芥川賞受賞ポトスライムの舟十二月の窓辺ポトスライムの舟 (講談社文庫)作者: 津村記久子出版社/メーカー: 講談社発売日: 2011/04/15メディア: 文庫購入: 1人 クリック: 19回この商品を含むブログ (42件) を見る 2008...

津村記久子著 『君は永遠にそいつらより若い』

2019.08.05

初めて津村記久子さんの本を読みました。君は永遠にそいつらより若い (ちくま文庫) 作者: 津村記久子 出版社/メーカー: 筑摩書房 発売日: 2009/05/11 メディア: 文庫 購入: 2人 クリック: 49回 この商品を含むブログ (53件) を見る面白いという言葉がピッタリくるような作品ではないのですが、面白いです。この小説が発表されたの...

松尾匡、橋本貴彦著 『これからのマルクス経済学入門』 日本のMMT提唱者

2019.07.20

日々閑々,

「財政赤字は悪でも脅威でもない」MMT提唱の米教授:朝日新聞デジタル「れいわ新選組」の山本太郎さんが注目されていることと連動して、にわかに反緊縮、MMTの話題が目立つようになっています。提唱者の一人、ニューヨーク州立大のステファニー・ケルトン教授が来日し講演をしたようです。MMTとは何か、経済理論は難しいところもあるのでしょうが、日本の現実に当てはめれば、日本は自国通貨を発行しているので、イ...

望月衣塑子著『新聞記者』 映画よりも権力の怖さがわかる

2019.07.13

日々閑々, 映画,

映画「新聞記者」の原案との触れ込みの望月衣塑子さんの「新聞記者」を読みました。 ああ、逆ですね、映画のほうが望月さんの名前を触れ込んでいるということです。新聞記者 (角川新書)作者: 望月衣塑子出版社/メーカー: KADOKAWA発売日: 2017/10/12メディア: 新書この商品を含むブログ (7件) を見る 望月さんの名前をはっきり知ったのは、例の菅官房長官の...

品田悦一著『万葉集の発明』

2019.06.25

令和騒ぎもやっと落ち着いてきました。このIT時代に元号など面倒なだけとは思いますし、実際、excelでは自作のプログラムが動かなくなっています。まあ、深く考えずに元号を使っていたわけですから自業自得ではありますが、これからはすべて西暦を使おうと思います。万葉集の発明 新装版作者: 品田悦一出版社/メーカー: 新曜社発売日: 2019/05/07メディア: 単行本(ソフトカバー)...

日本国憲法入門書3冊(メモ)

2019.06.11

日々閑々,

国立公文書館「ゴー・ホーム・クイックリー GHQ」を読んだことを機に日本国憲法について少し突っ込んで調べる気になり、とりあえず図書館の書棚にあった3冊を読んでみました。憲法とは何か (岩波新書)作者: 長谷部恭男出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2006/04/20メディア: 新書購入: 4人 クリック: 35回この商品を含むブログ (104件) を見る ...

中路啓太著 『ゴー・ホーム・クイックリー GHQ』 未だなし得ていない大いなる命題

2019.05.24

 中路啓太著 『ゴー・ホーム・クイックリー GHQ』 ゴー・ホーム・クイックリー作者: 中路啓太出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2018/11/22メディア: 単行本この商品を含むブログを見る 「ゴー・ホーム・クイックリー」これは未だ日本がなし得ていない大いなる命題。 1945年8月15日敗戦、その後、日本はGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)による占領下に...