熊谷奈緒子著「慰安婦問題」

慰安婦問題 (ちくま新書)

慰安婦問題 (ちくま新書)

 

図書館に返却に行った際、予約してある本も来ていないので何かないかと手に取った本です。

今現に問題となっていることに対して、新しい研究内容や視点を提供するわけでもなく、自分の立場を明確にするわけでもなく、単に網羅的に過去のことをまとめただけの、まさしく「慰安婦問題」のダイジェスト版のような本です。

序章の「今なぜ慰安婦問題なのか」の最後「本書の構成」に、

終章では、真の和解を目指して、日本がなすべきこと、責任を果たしていくべきことを提示する。慰安婦問題を、主観的かつ表層的、一面的に捉えることなく、客観的かつ多面的に理解することの必要性を訴えたい。

と書いています。

こうした過去の歴史や法律や政治や国家間の関係や、そして個人の心情(信条もか?)に関わる微妙な問題に対して客観をうたった発言というのはかなり注意が必要で、一体著者はどんな人物かを調べる必要があります。

この本の発行年は2014年6月、著者の紹介には、

熊谷/奈緒子
1971年生まれ。国際関係論。国際大学大学院国際関係学研究科専任講師。国際基督教大学大学院修士課程修了。ニューヨーク市立大学大学院で政治学博士号を取得

となっていますが、現在は国際大学の准教授のようです。

この本以外に出版されている日本語の出版物もないようですし、ネット上の情報もあまり多くないですね。ただ、書評に、左派右派両方から批判されているものがあるのが面白いですね。

で、内容は、これまで明らかになっていることの引用がほとんどですのであえて読むほどのものでもありませんでしたが、「真の和解を目指して」提示するとありますので終章だけを取り上げておこうかと思います。

熊谷奈緒子氏はこう考えているようです。

  • 1993年の河野談話、そしてアジア女性基金による償いがあり、それらに若干の問題があったにせよ、いまだ「慰安婦問題」が解決しないのは韓国側に問題がある。
  • 韓国では、「国定教科書で語られる民族主義に感化され」た「386世代と称される」人々により政府レベルでも反日意識が強くなっている。

終章のほとんどのスペースをこうした民族主義的な韓国の対応を語ることに割いています。その真意がどこにあるのかは図りかねますが、さほど悪意がある書き方ではありませんので、多分、ここ数年の日本社会の対韓国意識を反映しているのでしょう。

で、その上でどうするか?

  1. 密接な日韓間のパイプが必要である。
  2. 「日本は道義的謝罪と反省の精神を辛抱強く説得するのみである。」
    (注)これ引用ですが、日本語になっていないですね。
  3. 「河野談話の継承とアジア女性基金が体現した道義的反省と謝罪の精神を補強する政策」が必要である。
  4. 「慰安婦問題」をナショナリズムの問題に押し込めず、ジェンダーという視点から「戦場における強姦と性病の蔓延を防ぐために慰安婦を使うという戦略的思考」を問いただすことが必要である。
  5. 「慰安婦問題を一人の人間の人権の問題として捉え、人権侵害の構造的原因についての多様な面から考察がなされるべき」である。

とまとめられています。

これじゃ、何も提言していないことと同じですね。

1, なんてのは提言にもなっていませんし、2, はひどいですね。「謝罪と反省」していますと説得するって意味が分かりません。

4, のジェンダー視点で「慰安婦問題」を捉えるというのは、著者自身も書いていますが、

問題の相対化、とりわけ慰安婦問題のフェミニズム言説の強調は、日本の国家責任を覆い隠していしまう

ことになります。

なぜ「慰安婦問題」はいつまでも解決しないのか?

「南京虐殺」も同じですが、日本が戦後処理をきちんとしていないからです。第二次大戦終了後すぐに世界は冷戦に入ります。日本の戦後処理はアメリカ主導で行われ、そのアメリカは、日本の共産化を防ぐために戦前の支配層をそのまま残す道を選んだのです。

日本の「戦後」は「戦前」と断絶しているわけではなく、その支配構造はしっかりと温存されています。戦後70年の2015年を岸信介の亡霊に取り憑かれた安倍晋三首相でむかえていることが象徴的です。

残念ながら「慰安婦問題」は永久に解決しないでしょう。

永続敗戦論 戦後日本の核心 (講談社+α文庫)

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