検察庁法改正案にみる「不可解な社会」から「コロナ後の社会」へ

検察庁法改正案の問題点についてはネット上にもいっぱい出回っていますし、このブログでも検察庁法改正案そのものを読んでわかったことを記事にしていますが、この1週間でさらにいろいろな動きがありました。


安倍首相はルイ14世「朕は国家なり」を彷彿とさせる

その中でもこれが一番インパクトがあります。

検察庁法改正に対して元検察官たちが法務省に提出した意見書の中の一節です。タイトルは言葉を若干整理していますのでその一文が含まれる部分を引用します。

本年2月13日衆議院本会議で、安倍総理大臣は「検察官にも国家公務員法の適用があると従来の解釈を変更することにした」旨述べた。これは、本来国会の権限である法律改正の手続きを経ずに内閣による解釈だけで法律の解釈運用を変更したという宣言であって、フランスの絶対王制を確立し君臨したルイ14世の言葉として伝えられる「朕(ちん)は国家である」との中世の亡霊のような言葉を彷彿(ほうふつ)とさせるような姿勢であり、近代国家の基本理念である三権分立主義の否定にもつながりかねない危険性を含んでいる。 

全文は各新聞が掲載しています。リンク切れになる可能性が高いですのでいくつか貼っておきます。

5項目に分かれてとてもわかり易く整理された文章です。これを読めば検察庁法改正案の問題点がよくわかります。

私は最初にこの意見書を読んだ時に「ルイ14世」のところで一瞬「ルイ16世」を頭に浮かべてしまい、え!? とかなりびっくりしました。ルイ16世は言わずと知れたフランス革命で処刑された国王で、マリー・アントワネットの夫です。

反対意見をディスるだけの賛成派

反対意見は明快です。

  • この改正案が成立すると公訴権を独占している検察組織が時の政権の意のままになってしまう

これだけです。

この検察庁改正案の議論の中でとても不思議なのは、この定年延長以外の改正点、つまり検察庁幹部の人事権を内閣が握ることが必要だとの意見が(多分まったく)ないことです。

もちろん、これを積極的に進めたいという考え(まあ独裁政治ということでしょう)の人もいるのでしょうが、それはもうどんな政治体制をとるかの問題ですので次元が異なります。この法改正の範囲内では議論は成立しません。

改正案は定年を65歳にするだけ

これは意図的に改正案の特例を隠蔽しようとしているだけで反論に値しません。

検察庁は行政機関だからもともと人事権は内閣にある

前記事の「検察人事を内閣が掌握する」にも書きましたように、この反論はもっともらしく聞こえますが、これも議論の論点をずらす論法でこの改正案の意図を見えなくするものです。

この改正案の意図は、検察庁の幹部人事、検事総長、次長検事、そして検事長の勤務延長(定年を先に伸ばす)人事を内閣が握るということです。この改正案では、内閣がうんと言わなければ63歳を越えて検事総長、次長検事、そして検事長にはなれないのです。

検察の暴走を誰が止めるか

ホリエモン(堀江貴文さん)がこんなツイートをしています。 

本人の経験から出ている言葉でしょうから検察の問題点を指摘していることは間違いありません。

このツイートを内閣が検察をコントロールするべきだとの意味に解釈すれば、改正案に対する積極的賛成意見ということになりますが、じゃあ、内閣(時の政権)が検察を使い、反対勢力を潰そうとする危険性をどう担保するかに答えられなくなってしまいます。

うがった見方をすれば、堀江氏自身の「ライブドア事件」もその可能性がないとは言えません。現行法でさえ、時の政権の意向によって検察が動く可能性を否定できません。改正案はそれができるように明文化してしまおうというものです。

もちろん、逆も同じことで、時の政権自らの不正を起訴させないことも可能になります。こちらの方も現行法でさえ不可能ではないというのは「造船疑獄」で指揮権が発動されたことをみれば明らかです。

じゃあ誰が検察の暴走を抑えるのかですが、これはよく言われていることで裁判所しかありません。おそらくそれが三権分立の正しいあり方であり、現実にそれができていないのであればその議論をすべきだということです。検察を内閣のコントロール下に置くなどという、より危険な改正案など以ての外です。

擁護派は、安倍政権に反対するその行為が嫌い

というように、ネットに飛び交う意見、特にツイッターのツイートを見ていてもこの法改正を是とする意見は見当たらず、ほとんどが改正反対ツイートに対するアンチだけです。

たとえば、きゃりーぱみゅぱみゅさんが「#検察庁法改正案に抗議します」のハッシュタグをつけてツイートしたことに対するジャーナリストで政治評論家の加藤清隆氏がツイートしたのがこれです。

ジャーナリストを名乗る以上、改正案の肝の部分もわかってやっていると思われ、本当にたちの悪いツイートです。

こうしたツイートをいいねをしたり同意するリプライが相当数あります。

こうこうこうだから改正すべきだという意見があり、それに賛成するというのであれば理解できますが、単に人をディスるだけに乗っかる人が相当数いるようです。なんとも不可解なことです。

既存メディアはなぜこんなに反応が鈍いのか

新聞やテレビの反応が鈍いですね。取り上げてはいても危機感が感じられません。毎日一面で取り上げてキャンペーンをはらなくてはいけないくらいの問題だと思います。

そんな中で注目されているネットメディアがあります。


私は5月12日のライブ配信(下)で知ったのですが、検察庁法改正案について各政党代表者(クラス)を集めて討論会をインターネット配信したのです。参加者は枝野立憲民主党代表、玉木国民民主党代表、志位共産党委員長、福島社民党党首、足立日本維新の会幹事長代理で、もちろん自民党や公明党など他党にも出演依頼したようです。

それについては、

与党の自民党本部、公明党本部にも国会議員の出演を依頼しましたが、会議を理由で出席かなわず。れいわ新撰組の山本太郎代表は、今回の呼びかけに、時間の調整がつかず参加できませんでしたが、「検察庁法改正に反対する」というコメントをいただきました。

というメッセージが掲載されています。

その後も注目していたらこんな配信もありました。


第一部は政治家の討論なんですが、第二部は元検察官や元高等裁判所の裁判官が参加しています。亀石弁護士や郷原弁護士(元検察官)は知っていますが、市川弁護士(元検察官)や安原弁護士(元裁判長)は初めて名前を聞く方ですのでとても興味深く見ました。

おもしろかったです、という言葉もなんですが、法曹界の人たちの考えはもちろんですが、市川さんがちらちらと話される検察の内部の話であるとか、検察官一体の原則とか、とにかくこの配信は見たほうがいい内容です。

いずれにしても、この配信の中で言われていることは、そもそも検察庁の組織システム上、検事総長、次長検事、検察長の勤務延長をしなくてはいけない事案などない、さらに言えば(市川さん)検察幹部が長く同じ職にとどまることはより危険になるということです。

そして、ここに出演された方のまわりの法律関係の人でこの改正案に賛成する人はひとりもいないし、この改正案がまったく必要ないものであることは法曹界の常識であると話されています。

テレビではなくインターネット上でこうした番組が組まれるのは今に始まったことではありませんが、その多くは党派性が強く感じられ、この「Choose TV」のようなものが出てきたことはネットメディアが今後変わっていくターニングポイントになるのかもしれません。

その意味では、これも「POST COVID19(新型コロナ後)」の世界のひとつの形なのかもしれません。

  

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  • 作者:白井 聡
  • 発売日: 2018/04/17
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