白石一文著『火口のふたり』映画の原作本

映画「火口のふたり」の原作本です。

映画のレビューはこちらです。 


この映画を見るまで白石一文さんを知らなかったのですが直木賞作家なんですね。

物語としては、映画はほぼ原作通りに進んでいます。ただ、映画では言葉だけの賢治の背景にかなり嘘っぽさを感じていたんですが、さすがに小説ともなりますとその記述も多く、少しは賢治の思いも伝わってくるようにはなっています。

火口のふたり (河出文庫)

火口のふたり (河出文庫)

 

とは言っても、どちらも、映画も小説も、非難の意味ではありませんが、男の甘えの物語です。その意味では、言い訳のないぶん、映画のほうがすっきりしているとも言えます。

甘えというのはやや言い過ぎの感はありますが、そもそもの執筆のきっかけとなっているのが東日本大震災、そして福島の原発事故の精神的衝撃らしく、そこからくる無力感が、結局、女性の中でまどろみたいという、まあよく言われる胎内回帰願望みたいなものに走らせているのだと思います。

これ、今、この国の抱えている病理と同じじゃないですかね。政治の世界に典型的に現れている保守的傾向や自己愛、そしてそれを支える国中をおおう無力感や内向き志向、完全に視野が狭くなっています。

これを脱するには、首都を西日本に移すしかないんじゃないでしょうか。もちろん大阪以外でお願いします(笑)。

賢治も完全に挫折しています。

大学卒業後、大手の銀行に就職し、融資先の会社の社長と親しくなり、その一人娘と結婚、まあ物語の設定としては陳腐と言えば陳腐ですが、過去を語るだけですのでこれくらいが説明不要でいいのかもしれません。

とにかく、人生順風満帆の出だしでしたが、挫折の発端はすぐにやってきます。これまた原因は相当安易ですが水商売の女性です。その女性は義父の知り合いの会社社長の愛人です。

オイ、オイ、こんな設定でいいのかい? と思いますけどね。

で、義父の圧力で銀行をやめることになり、次に勤めた会社で頑張って力をつけ、その後起業、うまくいきそうになった矢先、東日本大震災が起き、会社は倒産ということになります。かなり精神的にまいったようで、抗うつ剤、睡眠薬を服用する毎日だったと回想しています。

そんな時に、いとこの直子が結婚するという知らせが入り地元に戻るわけです。そして、もうどうなってもいいやと直子とのセックスに溺れる賢治という話です。そのあたり、映画はかなり原作に忠実に描かれています。

興味があればこちらをどうぞ。

「火口のふたり」(ネタバレ)R18+の大人のアニメかも?と思う男の妄想ファンタジー – そんなには褒めないよ。映画評

火口のふたり

火口のふたり